●見ようとする努力

 そうした子どもたちが10代半ば頃になると、社会から早くもドロップアウトしかけるケースも出てくる。義務教育が終わるまでは「うちはそこまで貧乏じゃない」とのびのび過ごしていても、高校生になり経済格差を体感する子もいる。前出の荒井さんによれば、

「高校に行けたとしても、親から援助を受けられず、自分の生活のためにアルバイトをしなくてはいけない子もいます。友達とも遊べず、勉強もついていけなくなり、結果学校に行くことの意味を見いだせず、中退してしまう子も。アルバイトも転々として、20歳近くまで学歴もキャリアも身につけられないままの子たちを多く見てきました」

 こういう子どもたちは、ともすれば「チャラチャラした10代」「遊び惚けている子たち」に見えるかもしれない。かつてなら貧困の子どもというと、服が古びていたり、不衛生だったりと、見た目にも格差が表れた。ファストファッションやスマホが見た目の格差をなくす役目を果たす一方、“見えにくい貧困”が、背後にある貧困問題や、家庭の問題を見えなくした。荒井さんは言う。

「人知れず、徐々に社会からドロップアウトしてしまう子どもたちが見えなくなっています。親が忙しくてコミュニケーションをとる時間がなくても、地域の人など身近な大人が『見て支える』ことができれば、もう少し目標を持って頑張れる子も増えていくのではないでしょうか」

 まずは私たち大人が心にゆとりを持って地域の子どもたちを「見ようとする」ことが必要だ。(ライター・大西桃子)

【足立区「子どもの健康・生活実態調査」から】

■子どもだけで留守番10% 生活困難世帯は虫歯多い

 東京都足立区では昨年、区立小学校に在籍する5355人の子どもたちを対象に「子どもの健康・生活実態調査」を実施した。それによると、放課後に子どもだけで週1回以上留守番をしている世帯は約10%、夕食を1人または子どもだけで食べる世帯は約4%、目玉焼き程度の子どもへの食事づくりが毎日ではない世帯は約18%だった。

 グラフは、これらの調査結果について、生活困難世帯(年収300万円未満やライフラインの支払い困難経験ありなどの世帯)と非困難世帯で比較したものだ。生活困難世帯のほうが、「朝食を毎日食べていない」「運動習慣がない」「テレビや動画の視聴時間が1日3時間以上」「読書の習慣がない」「虫歯の本数が多い」「予防接種を受けていない」割合が若干多かった。

 経済状況によって子どもの健康や生活に差があるとみるか、全体的には大きな差はないと考えるかは意見が分かれる。区のこころとからだの健康づくり課はこう話す。

「生活困難世帯でも、困ったときに保護者が相談できる相手がいれば、子どもの虫歯やワクチン未接種などの割合が少なくなり、逆境を乗り越える力を養うことができるという結果になっています。それは非困難世帯でも同じです」

 つまり、経済的な要因だけがそのまま子どもの生活習慣に結びつくのではないようだ。親に相談相手がいるかどうかは、地域や所属するコミュニティーで孤立していないかにつながる。人と人がつながり、支え合う社会が必要だ。

AERA  2016年7月4日号