その頃始めたのが、セネガルで暮らす10歳の男の子に毎月3千円を寄付することだ。自分よりも大変な状況にある子どもを支援したい一心だった。自身のお金が地域のインフラや教育の整備に使われていること、彼の成長を写真や手紙で見届けることがうれしかった。

 現在、夫婦の世帯収入は1200万円。毎月1度、お金の使い道を考える夫婦会議を開く。

「私が奨学金で大学進学できたように、受け取ってきたものを社会に還元したいんです。意志のあるお金の使い道を常に考えています」(妻)

●寄付控除が後押し

 児童養護施設の子どもたちの海外留学を応援するチャリティーパーティーを企画したのはSilky StyleのCEO、山田奈央子さん(37)。自身も海外留学の経験がある。子どもが生まれてからより一層、社会の循環を考えるようになった。
「パーティーに子どもたちも連れていきました。幸せをシェアしたり本当の豊かさを考えたり、寄付を考えることは子どもたちにとっての生涯学習にもなると思っています」(山田さん)

 実は今、納税よりも寄付に投資したい人が増えている。後押しするのは、11年に変わった寄付税制だ。日本の寄付控除は認知度は低いものの、米国に比べても優れているといわれる。

 寄付控除の対象となる認定NPOは全国に700以上あり、寄付金額から2千円を引いた額の40%の税額控除が受けられる。つまり5万円寄付すれば1万9200円の税額控除が受けられるのだ。だが申告率はわずか14.3%にとどまる。

「この寄付控除は確定申告でしかできないので会社員が多い日本では浸透しづらい。年末調整で保険や住宅ローンと同じように“寄付”を項目に加えれば、国としての在り方を示すことにもなる」(前出の三島さん)

 面白いデータがある。日本の高額寄付者が寄付先を選ぶ際の特徴的な理由は「寄付者の名前が公表されること」だ(寄付白書2011)。米デューク大学のダン・アリエリー教授が行った寄付に関する実験では、寄付者の名前を公開した場合と非公開の場合では公開したほうが寄付の回数は多かった。日本では著名人の寄付が売名行為と炎上することもあるが、承認欲求は誰にでもあるので、寄付を受けるNPOの配慮が必要と、前出の三島さんはいう。

 日本では圧倒的に高齢者の寄付が多いのも特徴的だ。そこで、学生向けの「寄付教育」も始まっている。前出の日本ファンドレイジング協会が主催する授業では、自己肯定感を高め、社会課題解決能力を身に着けたグローバル人材を育成。社会問題を解決するNPOについて学び、フィランソロピー(社会貢献)とは何なのかを考える。授業を終えた学生が「僕たちにも社会を変えることができると初めて感じた」と語っていたのが印象的だった。日本流「ノブレス・オブリージュ」が芽吹きつつある。(編集部・竹下郁子)

AERA  2016年7月4日号