●1回あたり100円?

 都内のメーカー勤務の女性(31)のマイ・ヴィンテージもデザイナーとのコラボ商品。10年前、大学生のときに買ったミントデザインズのAラインのドレスコートだ。1万2900円の商品が7990円くらいに値下げしたころ購入した。

「グレーのきれいめコートで、大学の謝恩会や歴代の友だちの結婚式に着ていきました。20代の思い出と共にあるコートです」

 10年たった今もデザインは古びず、型崩れもしていない。“デザイン、クオリティー、値段”の全てに満足しているという。

「購入価格を着用回数で割ったら、1回あたり、もう100円を切っているのではないかと思います(笑)」

 商品はグレーと黒の2色あった。グレーだけでなく、黒も買っておけばよかったか……と思わなくもないが、こうした後悔をしないよう女性は日ごろ“ユニ対策”をとっている。

「Tシャツとかベーシックなアイテムで気に入ったものがあったら、シーズン終わりの底値の時期にもう1着買い足すようにしています。次のシーズンではデザインが変わってしまうので」

●ユニばれ回避に古着化

 さらに底値で買った商品を1、2年着ずにあえて“古着化”させることも。そうするとユニかぶり率は下がり、「ユニばれ」しないからだ。こうした“古着化”に、体を使って取り組む人もいる。大阪に住むリペア業の男性(46)は1年半前、ユニクロで買ったジーンズを週6日ペースではき込みヴィンテージ化させた。

 購入したのはユニクロがカイハラ社と組んで製造する“赤耳”のセルビッジジーンズ。カイハラは広島にある世界的なデニム生地メーカーで、セルビッジは耳という意味。旧式のシャトル織機で織られたデニムを指す通称だ。布の両端が赤い糸で縫われる「赤耳」はリーバイスに由来し、ヴィンテージデニム好きには特別な響きを持つ。

「購入の決め手は3990円という価格です。リーバイスの赤耳だと万単位します」

 12.9オンスというそこそこの生地の厚みに加え、裾の縫い目がチェーンステッチになっていることもジーンズ好きの心をくすぐった。

「自分で色落ちさせたかったので、未加工の濃紺のデニムを選びました」

 仕事着にして週6日着用。洗濯は3カ月に1回程度で、臭いは消臭剤でカバー。トイレに入るたび濡れた手でもものつけ根をせっせと拭き、その甲斐もあって3カ月目に“ヒゲ”(もものつけ根の色落ち)がつき、1年を過ぎたころ“ハチノス”(ひざの裏の色落ち)も出て、全体的に値段相応の満足できる色落ちとなった。

「ユニクロのジーンズだとわかる人はだれもいません」

 と男性は笑う。日々の暮らしがしわと色落ちとなって刻印された、まさにオリジナルの一品だ。

●ユニクロ着用率8割

 今年2月、「若者のユニクロ着用率8割」(日刊SPA!の街頭調査)という記事がネットで話題を呼んだ。いまや日本人の暮らしにユニクロの服は深く根ざしているが、50年後あるいは100年後に真の「ヴィンテージ」となる日は来るのだろうか。ヴィンテージ服に詳しいCLUTCH Magazine副編集長の三浦正行さん(39)に聞いてみた。

「可能性がないとは言えません。90年代に起きたヴィンテージ服のブームは、デニムを起点に40~50年代のアメリカの服のかっこよさに着目する人がいて、共感の輪が広がり市場ができました。どんな服でも付加価値がつき、需要と供給の関係が成り立てばヴィンテージになりえます」

 例えば将来、服が進化して一年中1枚で過ごせる便利なシャツができたとする。そうするとそうした時代にあっては、逆に今の時代のような不便な重ね着が新鮮でかっこ良く映ることもありうる。進化の先で失われた「味わい」の再発見によって服はヴィンテージとなる。

「今、私たちが何十万円も出してありがたく着るヴィンテージ服も、当時の人にとっては当たり前な服。売れ残り品だったりするケースもあるわけです」

 ということは、冒頭の男性の17年もののフリースもいずれ──!?実はこの男性、「私のフリースはヴィンテージ」と人に言った手前、ネットオークションをこっそりのぞいてみた。ところが、

「980円で買ったフリースが、680円で出品されていました。世間的には“ただの古着”のようで……」

 と苦笑する。しかしまだ断定するのは早計だ。時間と熟成が足りないだけなのかもしれない。その服が21世紀のITワーカー服として評価される日が来ないとも限らない。歴史の判断を待つのみだ。(編集部・石田かおる)

AERA  2016年6月27日号