●引き出しは60歳から

 老後の資金形成手段としては最強という個人型DCにも、注意点はある。あくまで老後資金を目的とした制度であるため、60歳までは原則として引き出すことができないのだ。山崎氏は、「むしろこれはメリットと考えたい」とアドバイスする。

教育費や住宅ローンの返済に追われる人ほど、少額でもいいので同時並行して強制的に老後資金の積み立てをしないと間に合わない。個人型DCの仕組みならせっかく積み立てたお金を現役時代に使い切ってしまうリスクを抑えられる」

 また、新たに対象となった専業主婦は所得がないため、個人型DC最大のメリットである所得控除は受けられない。住宅ローン控除を受けていて納税額がゼロになっているような世帯にも、新たな税の軽減効果は生じないことにも注意が必要だ。山崎氏は「それでも加入の価値はある」と解説する。

「運用益が非課税になるだけでも十分有利。専業主婦をずっと続けるとも限らないし、住宅ローン減税の期間にも限りがある。特に、専業主婦にとって自分名義の『退職金』を積み立てられる仕組みは魅力的」

 多くの人にとって最も心配なのは、「運用がうまくできるか」という点かもしれない。個人型DCでは投資未経験の人も、自己責任で運用商品を選ばなければならないからだ。決まった額を積み立てていても、老後に受け取る額は運用成績に左右されるため不確実だ。上手に運用できれば老後資産を大きく増やすことが可能である半面、失敗すれば元本割れもありうる。リスクとリターンは背中あわせなので、大きく増やすことを目指すなら、大きく減るかもしれないリスクを取らなければならない。

 これについて山崎氏は、「一時的にでも資産が目減りするのが怖いなら、無理に投資を行う必要はない」という。

「個人型DCでは預金や保険など元本保証商品も用意されており、全額定期預金にしても所得控除の恩恵は受けられる。定期預金とリスク投資を半々にするなど組み合わせてもいい」

(ライター・ファイナンシャルプランナー 森田悦子)

AERA  2016年6月27日号