池上:投機的な資金の流れに税金をかけようと言われています。しかしそれは結局うまくいかず、フランスは国際空港の使用料に上乗せをするという形にしました。シャルル・ドゴール空港を使うと、実は空港使用料という形で、トービン税から派生した税金を取られます。これは航空運賃の中に入っているから見えないのですが。

 トービン税のような、国際的な投機に課税をしよう、そのためにはどうしたらいいのかという技術的な研究は進んでいますが、なかなかそれがうまくいかないということがあります。

佐藤:タックスヘイブンがたくさん出てくるところは、イギリス海外領です。ここにはイギリスの帝国主義のずるさが端的に表れています。半分は人道的なんです。小さな島で産業は何もないが、海外領なので主権は持っている。そこでシティーの人たちが知恵を与えて、お金が集まるようにする。しかし、おいしいところはほとんどシティーが吸ってしまって、その搾りカスみたいなものしか現地に落ちない。でも、搾りカスだけでも十分に食べていくことはできるわけです。

●英国の二重基準 国家と企業の差

池上:ですからイギリスにとってはダブルスタンダードなんです。イギリス本国はタックスヘイブンを認めないよという顔をしながら、イギリス領ではタックスヘイブンにしている。本国ではやれないから、シティーの連中、あっちでやりなさい、ということになっています。

佐藤:もちろんアメリカの国内にもタックスヘイブンはあるのですが、そこは透明だから税金逃れには使えないんです。合法的な節税には使えるけれども、資産隠しはできない。しかし、イギリスの海外領にあるタックスヘイブンは、資産隠しができるんです。

池上:アメリカではデラウェア州がタックスヘイブンです。だからアマゾンなどのアメリカの名だたる企業は、登記上の本社はデラウェアに置いているんです。法人税もほとんどかかりませんから。

 アメリカには、州という50の国があるようなものです。デラウェアというステイト(州)に対して、他の州は何も言えないんです。明らかに連邦法に違反していない限り、連邦政府も口を出せません。あれだけの利益を上げていて、税金を十分に払っていない。これは大問題になっています。

佐藤:でも考えてみると、東インド会社のような企業には税金を払うという発想はありません。ですから、企業というのは何なのかということを、もう一回原点に返って考えたほうがいいということです。多国籍企業と国家は重なる部分と重ならない部分があるのです。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2016年6月13日号