医療ボランティアとして熊本県に入った内科医の中尾誠利医師も、こんな経験をした。
自治体の男性職員が「風邪だと思う」と訪れた。症状などを聞き取っていたときのことだ。
「なんか、つらいんです」
そう言って、涙を流したのだ。
東日本大震災での支援経験もあり、中尾医師はピンときた。
大災害時、自治体職員は住民との板挟みになりがちだ。被災状況の把握、住民向けの広報、避難所の運営。必死に働くが、時に住民から詰め寄られたり、罵声を浴びたりすることもある。
「ただ、黙って話を聞きました。そして、『住民のために、復興のために、一生懸命やってくれてありがとう』と伝えました」(中尾医師)
男性職員は泣きやみ、ほっとしたように診療室を後にした。
●逃げ場ない自治体職員
前出の山口所長は、多くの自治体職員たちこそ逃げ場がない、と懸念する。
「立場上言い返せず、使命感があるため休みづらい。肉体が疲労すれば心の疲労もたまりやすい。『まだ大丈夫』と思って頑張っているうちに、心のバランスを失ってしまう」
職員が1人倒れれば、数百人の住民に影響が出てしまう。
DPATは、自治体職員ら「支援」に回る人たちに向けた活動も重視する。セルフコントロールの重要性を訴えるのはもちろんだが、カギになるのは自治体の首長や役職者だ。
震度7の激震に見舞われ、現在も500人超が避難所生活を送る熊本県西原村。6月末には仮設住宅が完成し、復旧は次のフェーズに入ろうとしている。
避難所に近所同士、数戸単位のパーテーションを採り入れ、村民たちのコミュニティーを分断しないよう努めてきた日置和彦村長がいま、気を配っているのが職員たちの様子だ。