「所得による格差はある程度予想していましたが、これほど大きな格差を示す数字が出てきたのは驚きでした」

 データ入手の容易性から、調査は65歳以上が対象となったが、海外での調査などと併せて考えると、この傾向は、すべての年齢層に見ることができると考えているという。

 所得の低さがうつに影響するのは一体なぜか。近藤教授は言う。

「低所得の人ほど、趣味がなく家に閉じこもりやすい。歩行時間が少なく、“ストレス対処能力”が低いことなどもわかっている。これらはいずれも、うつの危険因子です」

 シングルマザーを支援するNPO法人「リトルワンズ」(東京都杉並区)の代表、小山訓久さん(39)によると、相談に来るシングルマザーで精神的不安を訴える人は7割近くいるという。

「収入、子育て、住居、将来のことなど、どうしていいかわからない漠然とした不安です」

●急に死にたいと思う

 厚生労働省の全国母子世帯等調査(11年)によれば、母子家庭の母の平均年収は223万円(10年)で、父子家庭の父の380万円(同)を大きく下回る。この収入の低さが、母親を精神的に追い詰めていく。

「急に死にたいと思うことがあります」

 5歳の息子と7歳の娘、2人の幼い子どもを抱え、うつに苦しむシングルマザーのBさん(38)は心情を吐露する。

 夫のDV(家庭内暴力)が原因で5年ほど前に離婚。睡眠障害、強迫神経症、心的外傷後ストレス障害などと診断され服薬を続けてきたが、最近になってうつと診断された。

 実家の家業を手伝っているが、年収は200万円程度。食事は実家住まいなので困ることはないが、生活は苦しい。

 子どもたちを外食に連れて行けず、玩具や洋服、勉強道具すら満足に買ってやれない。子どもが色鉛筆を持っていなくて、鉛筆で母親の似顔絵を描いてきたこともあった。

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