医師の指示する医薬品がなくても、代替薬を薬剤師が医師に提示して調剤することもしばしばだ。避難所に巡回に出かける医療チームにも薬剤師が同行し、その日のうちに患者の元へと薬を運んだ。足りなくなった薬は、医薬品卸と直接やりとりし、ほぼ過不足なく納入できた。

 医師がいても、医薬品がなければ治療の手立てはない。医師─薬剤師─医薬品の生命線を確保できるMPの出現は、被災地では大きな武器になることが今回の震災で証明された。

前出の伊藤さんには、忘れられない一言がある。本震直後の避難所で、医師の処方に基づいて抗不安薬をお年寄りに手渡したときだった。ホッとした様子でつぶやいた。

「ああ、これで生き残れる」

 大阪府医師会の医療チームの医師は、「薬の心配の必要がなくなった。心強い」と評価する。

 今回は和歌山、広島のMPも順次、被災地に入った。1台1200万円前後するMPだが、全国に広がれば、被災地の医療態勢は大きく変わるはずだ。(ジャーナリスト・辰濃哲郎)

AERA  2016年5月30日号より抜粋