一方、発達障害などで長く引きこもる人の「親亡き後」を見据えた実践もある。横浜市で大人の発達障害の人向けの「サポートホーム事業」コーディネーターを務める、PDDサポートセンター「グリーンフォーレスト」の浮貝明典さんは、たとえば、ひきこもり生活が長く続く人の場合、仕事のスキルは高かったとしても、家での生活が昼夜逆転するなどして、結局は就職に結びつかなかったり、就職してもすぐに離職してしまったりするケースがよくみられるという。

「本当に一人ひとりを職場に定着させるには、就労支援だけを一生懸命やっていても難しく、自立のための『生活の支援』が欠かせません」(浮貝さん)

 他者とのコミュニケーションがうまくいかない発達障害の人の場合、一軒家に多人数が集う共同生活型のグループホームでは支援がたちゆかなくなる。だからといって、親元ですべての面倒をみてもらっていた人をいきなり一人暮らしに移行させるのはハードルが高い。

 そこで「サポートホーム事業」では、ワンルームの部屋が複数ある建物全体を一つのグループホームと見立て、入居者は一人ひとりがワンルームで一人暮らしをする形態を取った。いわば本格的な一人暮らしの練習場だ。親がきて掃除などをすれば、真の自立に結びつかないため、親からの支援は禁じている。

「予防的な意味合いもあり、親御さんが生きている元気なうちに、将来自分がいなくなっても子どもはこんなふうに生活していくというのを見てもらいたいんです。ひきこもりの人の面倒を長くみてきた親御さんは、長い間に共依存のような関係になっていることも多く、手を出さないと不安になりがちです。親亡き後を見据えて、親の側も自立してもらうことも大事だと考えています」(浮貝さん)

●タックス・ペイヤーに

 コーディネーターとグループホームの職員が連携しながら各部屋を定期的に訪問して食事、衛生管理、金銭管理といった細かな項目一つひとつの支援をし、どこまで自立しているか確認しながら生活のアセスメントを行う。職員は専用の携帯電話を持ち歩き、24時間体制で相談も受ける。2年の入居期間の中で、訪問頻度を徐々に減らしていき、自立へと導いていく。一人暮らしに移行後も、フォローアップをしていく。

 これまでにのべ30人近くが本入居して、そのうち十数人がホームから「卒業」していった。今のところ、一人暮らしが破綻して親元に戻ったというケースは一件もないという。

 子に自立して暮らしていく力を身につけさせるには、早いうちからの取り組みが欠かせない。中2の片山和くんを育てる裕子さん(43)の今の望みは、「息子をタックス・ペイヤー(納税者)にすること」。将来を見据えて何でも自分で実践させている。和くんは休日、自分で食べたいもののメニューを決め、材料をネットで調べ、スーパーで買ってくる。そんな日々の実践が、発達障害の子を自立へと導く。

※この記事はAERA5月23日号から5回にわたり連載している集中連載「発達障害と生きる」の第3回です
AERA 2016年6月6日号