●44歳まで月6万円返済

 一方で、親に気兼ねして奨学金を借りすぎてしまう学生や、金利負担に無自覚な親の存在も、氏家さんは指摘する。
離婚後のマネープラン相談で歯科大学に通う娘さんの教育費を尋ねると、奨学金を最大限借りているから大丈夫とおっしゃる。計算したら、44歳まで月6万円以上返済し続けることになっていた。これは危険です」

 中央大学4年の男性(22)は最近、奨学金の利用を大学に相談した。母子家庭で、4月に母親が他界したからだ。弟は社会人になったばかりだが、男性は国立大学の大学院を目指して勉強中。インターンなどをしながら、収入を得ることにもこだわる。すでに起業して自立している同世代を意識しているからだ。

「奨学金返済は社会的責任。ただ、成績優秀で綿密な返済計画を立てていた友人が、家庭問題で返済に苦しむ場面も見てきた。さまざまな事情の個人に寄り添う制度が必要だと思います」

●出願前の予約を忘れず

 実際、学生に“寄り添う”奨学金は増えつつある。大学独自の奨学金制度には、返済の必要がない給付型も多く、私大でも国立大学より学費負担が軽くなるケースもある。

 今年、長女(19)が都内の有名私大に合格したパートタイマーの女性(45)は、初年度を対象とした奨学金の情報に気づかなかったことを後悔している。

「推薦で入学したのですが、じつは書類の最後のほうにあった奨学金の記述を見落としていました。家計はギリギリの状態で、次女の受験も控えている。今後は必ず検討したい」

 出願前に予約可能な給付型奨学金を図1にまとめた。先の九州の大地震のような災害で被災したり、不況で親が職を失ったりしたとき、申請できる給付型奨学金もある(図2)。

 給付型というと、一部の成績優秀者向けというイメージを持つ人もいるかもしれないが、予約型の奨学金は採用候補者数も多く、入試成績の上位者に限ったものばかりでもない。たとえば早稲田大学の「めざせ!都の西北奨学金」の採用候補者数は、1200人にのぼる。

 こうした奨学金には、大学側のある狙いも込められている。

「地方出身者の割合が減少している現状に歯止めをかけたい。地方出身者が増えることにより、価値観の異なる学生同士が切磋琢磨する環境が維持され、早稲田の伝統、校風の維持につながる」(早大学生部奨学課)

 早大は、17年度入学者を対象に、家計負担がより軽減されるよう、奨学金制度を改める予定だ。(ライター・三宮千賀子)

AERA 2016年6月6日号