惨劇から5日後のライブハウス前。血痕は洗い流されたが、通行人が時折現場を凝視していた。冨田さんは通報直後に刺されたとみられる(5月26日、東京都小金井市)(撮影/高井正彦)
惨劇から5日後のライブハウス前。血痕は洗い流されたが、通行人が時折現場を凝視していた。冨田さんは通報直後に刺されたとみられる(5月26日、東京都小金井市)(撮影/高井正彦)

「女性アイドルをファンが刺した」と報じられたこの事件。その見立ては不正確だとアイドルの現場に詳しい吉田豪さんが警鐘を鳴らしている。

 5月21日の午後5時5分、東京都小金井市の小さなライブハウス前で惨劇が起きた。

 大学生の冨田真由さん(20)は、演奏のため会場入りしようとしたところを男からナイフで全身20カ所以上刺され、意識不明の重体に。襲ったのは、京都府の会社員、岩埼友宏容疑者(27)。岩埼容疑者は、ツイッターなどを通じて、1月頃から冨田さんに執拗なストーキングを続けていた。4月末、冨田さんからプレゼントした時計を送り返された上、ツイッターでブロックをされると、逆上。凶行の15日前、「犯罪します」と宣言し、襲撃直前には「まだかなまだかな~」とネットで実況するという行為に出た。

●一人での活動リスクは高い

 いま広がるのは、報道によるミスリードの指摘だ。事件直後から、マスコミ各社は「地下アイドルを地下アイドルオタクが襲った」という構図で報じた。

「これでは、なぜ彼女が被害に遭ったのかの本筋を見失う」

 プロインタビュアーでプロ書評家の吉田豪さんは言う。

「冨田さんは、過去にアイドルをしていたこともありますが、事件時は地下シンガー・ソングライター(SSW)の活動をしていた。だから、犯人もアイドルオタではありません」

 地下アイドルの文化は、世間が想像する以上に成熟している。ファン同士の横のつながりが存在するため、握手会などでの暴行・傷害事件の発生に対する一定の抑止力となる。2014年にAKB48のメンバーら3人が岩手県での握手会中に切りつけられる事件が発生したが、吉田さんによると犯人はいわゆるアイドルオタではなかったという。

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