撮影/植田真紗美
撮影/植田真紗美

 鉄道といえば日本をつなぐ大動脈。地方出身者の夢や憧れを東から西から運んできた。正々堂々主要幹線でありながら、東京のローカル線の匂いがあるのは何故か。走り出せ、中央線。

 中央線沿線には、出世や野心などとは正反対のイメージがつきまとう。イラストレーターなどとして活躍するみうらじゅんは無名時代を中央線沿線の高円寺ですごしたが、師匠筋の糸井重里から「メジャーになりたかったら中央線を去れ」と言われて原宿に引っ越したという話が伝えられる。これなど中央線沿線の“下降志向”を象徴するエピソードではないか。

 中央線沿線にはなぜ上昇志向を厭う空気が漂うのか。そのサブカルな雰囲気はどこに由来するのか。ここでは中央線の歴史をひもときながら考えてみたい。

●実は幹線

 まず確認しておきたいのは、中央線は正式名称を中央本線というとおり、地方と東京を結ぶ主要幹線だということだ。しかし同じ位置づけにある東海道本線や東北本線とくらべると、幹線というイメージはどうも薄い。

 そもそも中央本線は名目上は東京~名古屋間を結ぶ幹線だが、実際には塩尻(長野県)を境に東西に二分される。塩尻以東の中央東線の上りは東京方面だが、中央西線ではこれが名古屋方面に変わる。こうした事実からすると中央線は、東海道線や東北線のような日本の東西・南北を結ぶ大動脈とはいいがたい。

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