忙しい共働き夫婦には、互いに決して言ってはいけない一言がある(※イメージ)
忙しい共働き夫婦には、互いに決して言ってはいけない一言がある(※イメージ)

 忙しい共働き夫婦には、互いに決して言ってはいけない一言がある。話題の本『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新書)の著者が、妻のホンネを詳報する。

 朝起きると、2歳の娘がぐったりしている。恐る恐る、熱を測ると38度を超えていた。これでは確実に保育園はお休みだ。都内の不動産会社で働くユミさん(34)は頭を抱えた。

「どうしよう。今日は重要な会議があるのに」

 夫(38)は見て見ぬふりか、いそいそと自分の身支度をしている。寝ている子どもを抱きかかえながら、夫を見上げ、目が合うと――。

「俺は無理。休めないからね」

 上から目線のその言葉は、完全にNGワード。その瞬間、積もり積もったユミさんの怒りは頂点に達し、殺意さえ覚えた。

「あんた、たまには休んでよ!私だって仕事してるんだから!」

 たがが外れたユミさんの勢いは止まらない。

「だいたいねぇ、いつもダラダラ残業してんじゃねーよ! 仕事の効率悪いんじゃないの? こっちは必死に5時までには終わらせて、朦朧としながらお迎えに行って、ご飯作って、お風呂入れて、絵本読んだり、保育園の連絡ノート書いたり、大変なんだからっ!子どもを寝かしつけて夜中に持ち帰った仕事をこなして、また朝ご飯作って、ご飯食べさせて……。休めないからねって、何様?」

 ここまで一気に吐き出すと、その怒鳴り声に驚いた娘が泣き始め、夫婦喧嘩は休戦となった。

 女というだけで、ユミさんが当然のように育児休業を取り、保育園の送り迎えをしている。保育園に通い始めて娘が情緒不安定になると「長時間、保育園に預けるのは可哀想だ」と夫が言い始め、ユミさんが時短勤務で一日6時間労働にした。すると月給は手取り30万円から20万円に激減。IT企業で働く夫は、手取り35万円。何かにつけ、「俺が休んで、左遷されてもいいの? 出世できなくなってもいいの?」と脅迫まがいで、カチンとくる。

 ユミさんは「せめて、『いつもママばかりに頼んで悪いね』という一言があれば……」と、恨みが募る。「まるで母子家庭状態で、もう夫なんていらない。でも離婚も大変。いっそ、あいつが死んでくれれば、生命保険は下りるし、住宅ローンもなくなっていい」と、ユミさんにとって夫は死んでほしい対象でさえある。(文中カタカナ名は仮名)(ジャーナリスト・小林美希)

AERA  2016年5月30日号より抜粋