日本という軍事的な「防波堤」を失うと、中国やロシアの潜水艦は頻繁に太平洋に進出する。そうなると、米国は自国防衛に直結する権益を脅かされる。米軍は「自国の安全のために日本も守っている」のが内実だとすれば、「誰が大統領になっても米国の根底の国益に反することはできない」(柳澤氏)。

 自民党の高村正彦副総裁は4月6日に都内で講演した際、トランプ氏の発言が支持される背景には日本の「安保タダ乗り論」がある、と指摘。野党5党が提出した安全保障関連法の廃止法案について「審議することは国益に反する」と訴えた。

 これに対し、柳澤氏は「集団的自衛権を行使して米国の要望に応えるということになると、際限ない米国の覇権戦争への協力の道を進むことにならざるを得ない」と警鐘を鳴らす。

 在日米軍が撤退した場合、「国防」を立て直すのに数十兆円かかるといった見方や、憲法9条改正が必要との指摘もある。しかし、柳澤氏は「全くの誤り」と説く。日本の領域を守るという点に絞れば、毎年5兆円規模の予算を消化し、世界トップ5の実力をもつ自衛隊で十分対応可能。9条改正の必要もない。

「国を守りたいのか、米国の覇権を守りたいのか。究極の問いが突きつけられている」(柳澤氏)

(アエラ編集部)

AERA  2016年5月30日号より抜粋