夏の陣を前に家康から、始め10万石、さらに信濃一国を与えるとの条件を示されるが、幸村は断った。久保さんは、長いものに巻かれない、幸村の生き方にもグッときた。

 洋食屋やそば屋などで働いた20代を終えようとしたとき、一度くらい幸村のように、人生に勝負をかけてみようと決めた。

「男に生まれた以上、何か残したいじゃないですか」

 開業資金はゼロ。でも、失敗しても戦国時代のように命まで取られるわけではないと腹をくくった。借金をして、30歳の時に「真田丸」をオープンしたのだ。

 敵を引き寄せて打ち破るなど、幸村は独自の戦法が有名だ。久保さんも、夏場の「冷やし雑炊」や、好きな具を自分で選ぶ「トッピング雑炊」など、独創的なメニューにこだわった。これらは何十年経った今も、人気メニューだ。

 弱いものを守る、ウソをつかない、正直に商売をする――。幸村から学んだ生き方を胸に刻んでいるうちに、店は30年も続く人気を保った。(アエラ編集部)

AERA  2016年5月16日号より抜粋