「黙っていれば分からなかったこと。内部で問題になっても、次のモデルから改めれば、なかったことで済む。公表すればユーザーへの補償を含め騒動になる。そこまでして表沙汰にするには何か事情があったのでは」(業界関係者)

 提携を巡る両社の関係は、時を経るにつれ微妙さを増してきた。「国内100万台生産体制」を維持したい日産が、市場の4割を占める軽自動車を三菱自任せにせず、自社工場で生産したいと考え始めたからだ。しかし、小さいクルマを安くつくる技術は三菱自に一日の長がある。

 5年も共同開発をしていれば、相手の内情も見えてくるもの。「データ不正」を表面化させれば、何が起こるか日産は分かっていただろう。身から出たさびとはいえ、三菱自は窮地に追い込まれた。公表までの約5カ月間、水面下でいったい何が話し合われていたのか。

 ルノー・日産グループの世界販売台数は年852万台。そこに三菱自の107万台を加えれば、トヨタ自動車(1015万台)、独フォルクスワーゲン(993万台)の背中が見える。日産で17年、ルノーで11年トップの座に君臨するゴーン氏が、いよいよ2強追撃のアクセルを踏んだのは間違いない。

 世界で競い合う自動車メーカーは、規模拡大でコストを下げようと躍起だ。一方、縮む市場にいまだ10社がひしめく日本。技術があって経営が弱い企業は外資に狙われる。

 2兆円近い有利子負債を抱えた日産の経営が行き詰まったのが1999年。そのとき、救済の手を差し伸べたのがルノーだった。送り込まれたゴーン氏は人員削減、工場の閉鎖、赤字部門切り捨てなど徹底したコストカットで黒字を回復。「ゴーン革命」と喝采を浴びた。

 15年の世界販売台数をみると、日産の542万台に対しルノーは280万台。売上高でも日産が12.1兆円、ルノーは5.7兆円。ルノーは、規模が倍近い日産から高額の配当を受け取っている。新モデルでも、共同開発と言いながら原型づくりを担うのは日産。「ルノーは日産に寄生している」という声が内部から上がるほど日産が「親孝行」する仕組みが定着した。

 日産の買収で成功したルノーが、2匹目のドジョウとして狙ったのが三菱自ではないのか。(ジャーナリスト・山田厚史)

AERA 2016年5月23日号より抜粋