寿紀さん(中)は、石井家に迎えられた当初、佐智子さん(左)が一時でも離れると泣いた。佐智子さんは半年以上、寿紀さんを抱いたまま食事の支度をしたという(撮影/後藤絵里)
寿紀さん(中)は、石井家に迎えられた当初、佐智子さん(左)が一時でも離れると泣いた。佐智子さんは半年以上、寿紀さんを抱いたまま食事の支度をしたという(撮影/後藤絵里)
寿紀さんが乳児院からもらったアルバム。交流を始めた頃の佐智子さんとの一枚も(撮影/後藤絵里)
寿紀さんが乳児院からもらったアルバム。交流を始めた頃の佐智子さんとの一枚も(撮影/後藤絵里)

子どもの権利を初めて明記し、保護を必要とする子に「家庭と同様の環境での養育を」とうたう児童福祉法の改正案が国会に提出された。「施設大国」日本の風景は変わるのか。(朝日新聞記者・後藤絵里)

 埼玉県蕨市の石井敦さん(57)、佐智子さん(56)夫婦には9歳から20歳まで4人の息子がいる。毎年、兄弟が並ぶ年賀状を作るのが恒例行事だ。年ごとに整理された年賀状を見ながら、大学3年の長男、寿紀さん(20)が懐かしそうに言う。

「これは僕が中2、すぐ下の弟が小6の時。彼の背が急に伸びて僕を越したんだ」

 寿紀さんは1歳半で石井家に迎えられ、3歳で特別養子になった。2学年下の弟は夫婦の実子で親ゆずりの長身だ。三男は特別養子、四男は長期養育の里子。兄弟に血のつながりはないが、サッカーが共通の趣味。試合の日は家族で応援に行く。

「何かあったら、長男の僕が弟たちを守らなくちゃ」

 そんな寿紀さんも、石井家に来た当初は「とにかく泣いていた」(敦さん)。やがて佐智子さんが妊娠。夫婦は不妊治療もしたから、「寿紀が弟を連れてきた」と喜んだ。寿紀さんはお腹の大きい佐智子さんのスカートに潜り込み、「僕もお母さんのお腹に入りたい」と甘えた。

 小学校卒業前には反抗期もあった。高校では成績がふるわず、親子で学校に呼び出されたこともある。寿紀さんは言う。

「両親には叱られもしたし、ほめられもした。進路に迷った時は背中を押してくれた。僕にとって家族は、僕の全部を受け止めてくれる特別な場所」

 特別養子縁組は生みの親が育てられない子どもと血縁関係のない夫婦が、行政や民間の仲介で出会い裁判で法的に親子となる制度だ。海外では家庭に恵まれない子の養護政策として一般的だが、日本では相続などを目的とした大人のための養子縁組のほうが圧倒的に多い。日本に保護を必要とする子は4万人以上いるが、特別養子縁組の成立は年に500件程度。人口が日本の約半分の英国の10分の1だ。

●8割以上が施設 海外と対照的

 法的な親子にならずに家庭で育てる里親制度もある。生みの親が病気や貧困で一時的に育てられない、6歳未満が対象の特別養子縁組ができないなどの場合、子どもに家庭で育つ機会を与える手段だが、全国の里親委託率は平均15%程度。自治体で取り組みの差は大きく、委託率が5割近い県や市もあれば、数%のところもある。

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