「とにかく『自分は何のために生まれてきたのか?』『人はなぜ生まれてくるのか?』と、生き方についていつも真剣に自問していました」

 尾崎は87年12月、覚せい剤所持で逮捕され、翌88年2月に釈放される。その頃、「覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか?」という標語がテレビでよく流れた。

 それを聞いた尾崎は須藤さんに、「人間をやめるってどういうことですか?」と問うた。「人間をやめるってことは死ぬことだよ」と返すと、「あっそうか、そういうことですね……」、そんな会話をしたという。

「正しい答えを求めていたんでしょうね、いつも。常に疑問に感じたことを何でも質問するタイプでした」

 尾崎が書く詞には装飾感がなかったと、須藤さんは話す。

「普通に人間が持つ、暗い感情を詞にしていたと思います。負感情というか、心の闇みたいなものです。それを表現の妙に頼らず、あの年齢なりの正直でわかりやすい、丸裸の言葉で書いていたのだと思いました」

 尾崎が逝って24年。主婦の重高真由美さん(47)は、尾崎には感謝の言葉しかない。母子家庭に育ち、22歳の時に最愛の母親を亡くした。これからどうやって生きていこう……。
迷い、不安だった時、はじめて尾崎のライブに行った。

 ステージの尾崎は、こんなメッセージを観客に投げた。

「どんな困難にも負けないで、いつまでも夢を捨てないで。君たちへ僕からの精一杯の愛情を込めて、いつまでも歌い続けることを約束します」

 この言葉で重高さんは、前向きになれた。今は些細なことかもしれないが、夫と喧嘩して沈んだ時も、尾崎を聴くと元気が出ると笑う。(アエラ編集部)

AERA 2016年4月25日号より抜粋