政治家を暗殺して、政治活動を制限する法律を導入しようとする当局の陰謀。独立を求めて街に出た若者に激しく暴力をふるう警察。英国総領事館前での抗議の焼身自殺。地元の広東語に代わって中国の「普通語」の使用を強いられるタクシー運転手。ドラえもんまで発禁にする言論封じ……。内容の数々は香港の未来の「見たくない予言書」とも言われる。

 中国政府に批判的な本を扱う書店主が失踪する事件が起きるなど、香港では強まる中国の支配に重苦しい空気が漂う。中国への返還から20年近くが過ぎ、一国二制度で約束されていたはずの自由を支える「高度の自治」に揺らぎが見える。移住を検討したり、独立まで口にしたりする人も出始めている。映画は、こうした不安を見通すような展開だ。

 監督の伍さんは言う。

「描きたかったのは絶望ではない。大きな環境を作るのは、一人ひとりの小さな選択です。香港のために何ができるか、一緒に考えていきたい」

 映画がヒットする一方、大陸側の反応は冷ややかだ。共産党機関紙・人民日報系の環球時報は「思想のウイルス」とののしった。授賞式のインターネット中継も取りやめになったほか、国営新華社通信などは受賞リストから、この作品をわざわざ除いて報じた。

 だが、習近平氏が率いる共産党が強く抑えれば抑えるほど、香港では反発が強まり、溝は深まるばかりだ。(朝日新聞編集委員・吉岡桂子)

AERA 2016年4月25日号より抜粋