「搭乗率(飛行機の座席の何割が埋まっているか)の採算ラインはANAやJALが6割ほどなのに対し、LCCは8割前後。LCCの経営が成り立つためには搭乗率を高く保つことが絶対条件なのです」

 乗客を目いっぱい詰め込み、できるだけ頻繁に飛ばす──。LCCの安さの理由は、突き詰めればとてもシンプルだ。すべての便をできるだけ満席に近づけると同時に、利益もしっかり確保するため、カギとなるのがきめ細かな運賃設定だ。

 ピーチの成田─関空便の場合、通常運賃の最安タイプで3690円~1万7190円。4倍を超える差がある。運賃設定の責任者を務める増田幸姫(みゆき)さんによると、路線や運航時期、時間帯に応じて各便に運賃のバリエーションは十数通りある。早く買うほど安いのが原則。出発日が近づいて座席が埋まるにつれ、だんだん価格は上がっていく。予想より売れ行きが良ければ、高めの価格で売る席を増やす。逆に売れ行きが鈍ければ価格を引き上げるペースを緩め、直前になっても空席が多ければ価格を下げることもある。

 航空経営研究所の赤井氏によると、一般にLCCが出発日のかなり前に示す激安運賃は新しい客を呼び込んだり、安さをPRしたりするために原価割れで販売する「客寄せ」。その後に売り出す比較的高いチケットで利益を確保し、便全体として帳尻を合わせるのだという。

 文章にするとこれだけなのだが、すべての便についてどのくらいのペースで予約が入るかを見積もり、利益を最大化しつつほぼ満席に仕上げる技は並大抵ではない。増田さんたちは人気アイドル「嵐」のコンサートや高校総体といったイベントの日程はもれなく調べ上げ、競合他社の運賃設定も横目で見ながら綿密な予測を立てる。コンピューターシステムを用いるが、刻々と変わる予約の入り具合もにらみつつ、「最後は担当者の経験やカンがものを言うことも多い」(増田さん)。詳細は企業秘密。まさに職人芸だ。(アエラ編集部)

AERA 2016年4月18日号より抜粋