高岡のこの言葉に当てはめると、先のウェルネスクラブは「長寿社会を健康で」という正しいミッションのもとに組み立てられた正しいビジネスモデル。「マーケティング=市場調査」という一般的な概念からは飛躍を感じるものの、この定義で考えるとマーケティングは途端にわかりやすくなる。

 高岡流マーケティングの原点は、「キットカット受験生応援キャンペーン」だ。
 
 99年に39歳の高岡が子会社ネスレコンフェクショナリーに出向した時、キットカットはチョコレート菓子市場で他社商品に圧倒的な差をつけられて2位。そんな折、高岡が企画したのが、博多弁「きっと勝つと」とのゴロ合わせに目を付けたキャンペーンだった。東京のビジネスホテルを回り、「ホスピタリティー不足」を指摘して、宿泊する受験生とのコミュニケーション促進ツールとしてキットカットを配ることを提案して歩いた。ことごとく断られたが、半信半疑で受け入れたホテルが2軒。朝、ホテルを出る受験生に「がんばって」と言葉をかけながら笑顔でキットカットを手渡したところ、受験シーズンが終わる頃、100通以上の礼状が届いた。

「受験生のストレス」という当たり前すぎて意識されない問題を顕在化させ、ホテルと宿泊客とのコミュニケーション不足という問題も一気に解決。キットカットは、受験シーズンに励ましのメッセージを伝える定番ツールとなり、マーケティング理論研究者フィリップ・コトラーが「先進的事例」として著書で取り上げた。(ライター・三宅玲子)

AERA 2016年4月11日号より抜粋