今年1月の新築物件の契約率は58.6%に落ち込み、「販売好調」の目安とされる7割を割ったものの、2月は72.9%に回復。「好調とまでは言えないが堅調」(松田氏)な状態はなお続いているという。

 そもそも今回の不動産価格上昇は、実態とかけ離れた水準まで不動産価格が高騰する「バブル」とは言えない──。これが業界関係者の大方の見方だ。

 松田氏によると、最近の首都圏の新築マンション価格上昇の主な理由は、(1)価格水準が高い東京都区部の物件が全体に占める比率が高まった(2)人件費や資材費といった建設コスト全般が高騰した、という2点だという。

(1)は、東京都心まで1時間強くらいかかる千葉県や埼玉県の最寄り駅から、路線バスに揺られてやっとたどりつくような場所でもマンション開発が相次いだ07~08年の「ミニバブル期」とは状況が異なることを示す。(2)は、東日本大震災後の復興や東京五輪向けの建設需要が膨らんでいるためで、「マンション業者側もギリギリのもうけでやっているのが実情」(松田氏)。そこまで強気な価格設定というわけではない、ということだ。

●最大1~2割の下げか

 松田氏によると、都心の物件について1戸当たりではなく、1平方メートル当たりの単価を見れば、最近でも極端に高水準なわけではない。低調ながらもだらだらと続いた「戦後最長の景気回復」末期のミニバブル期より1割ほど低いという。

 結局、「ピーク」は見た目ほどには高くなかったようだ。では、そこからの相場下落の衝撃はどれほどになりそうなのか。

 年明け以降に円高・株安が進んだことを受け、日銀は2月、借金する時の金利を一段と押し下げて景気をテコ入れしようと異例の「マイナス金利政策」を導入した。不動産関連の融資を多少は加速させる可能性はあるが、株安・円高傾向を一転させるほどの効果は出ていない。実質国内総生産(GDP)の成長率は、昨年10~12月期に続いて今年1~3月期もマイナスが続くという見方が目立つ。ただ、景気が急落する兆しまでは見えない。

 不動産市場でも深刻な「バブル崩壊」は起きない、という見方は松田氏とニッセイ基礎研究所の増宮氏の間で共通する。相場の上昇幅が大きかった都心の高級マンションの場合で1~2割くらい値下がりする可能性はある、というのが増宮氏の見立てだ。

 本誌でも繰り返し報じてきたように、金融緩和に頼り切ったアベノミクスは日本経済を成長軌道に戻すことはできなかった。カネ余りと円安によって株や不動産といった資産価格は押し上げられたが、日本経済自体が上向かないのに、資産価格だけが青天井で上がり続けることはあり得ない。いまひとつ盛り上がらないまま、うたかたの宴は尻すぼみに──。当たり前といえば当たり前の結末だ。

AERA 2016年4月18日号