きっかけは2月24日、シャープが新たに「偶発債務」の存在を鴻海に伝えたことだった。将来発生するおそれがある債務が太陽電池事業などであったとの内容で、その発覚以降、シャープの首脳はテリー・ゴウ氏に会おうとしても、中国の工場に呼びつけられた揚げ句に長時間待たされ、しかも、結論をなかなか聞かせてもらえなかった。銀行が設定した融資枠5千億円超の借換期限が3月末に迫るシャープは焦ったはずだ。

「交渉相手を決める前に偶発債務のことは言うべきだった。値引きは500億円以下で済んだはずよ」(前出の記者)

「台湾のチンギス・ハーン」と呼ばれ、たった数人で立ち上げた町工場を30年かけて、徹底したコストカットと規模の拡大で「巨大メーカー」にまで育て上げた立志伝中の人物に、シャープは手痛い洗礼を浴びた。(ジャーナリスト・野嶋 剛)

AERA  2016年4月11日号より抜粋