鴻海によるシャープの買収が最終決定した翌日、台湾の経済紙はいずれも1面トップで大きく報じ、総合紙も多くの紙面を割いてそのニュースを伝えた(撮影/野嶋剛)
鴻海によるシャープの買収が最終決定した翌日、台湾の経済紙はいずれも1面トップで大きく報じ、総合紙も多くの紙面を割いてそのニュースを伝えた(撮影/野嶋剛)

 台湾の小さな下請け工場を年商10兆円の巨大企業に育てた男が、日本の大メーカーをついに買収した。直前には買収価格の下落もあったが、その背景は。

 鴻海(ホンハイ)精密工業を率いるテリー・ゴウ(郭台銘)会長の信心深さは、台湾ではよく知られている。

 末広がりで、お金もうけの意味もある「発」と似た発音の「八」は、台湾人が最も好む縁起のいい数字だ。今回のシャープ買収額は3888億円。シャープ株の買い取り価格も1株88円。どうしたって、偶然とは思えない。

 これだけでも、買収交渉が鴻海のペースで進んだことがうかがえる。

 鴻海とシャープの両社が取締役会でそれぞれ今回の買収案を決めた3月30日の夜、鴻海の取材歴が10年を超える台湾紙の女性記者と話していると、ため息をついてこう語り出した。

「『軟土深掘』(軟らかい土ほど深く掘られる)ってことわざ、知ってる? いくらなんでも1千億円は引かれ過ぎよ。あの郭董(グオドン=テリー・ゴウ氏)に弱みを見せたのが、まずかったわね」

 翌日の台湾紙の朝刊紙面は、買収価格で当初の提示額4890億円より1千億円も引き下げさせた鴻海の「勝利」をたたえる見出しであふれた。

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