試合後の記者会見でチャンは、「もう24歳になる僕にとって4回転は1本で十分。フィギュアスケートとはジャンプを何本も跳べば勝てるものじゃない。技の質や滑りで魅みせたい」と強気の発言。隣で聞いていた羽生は、「質」を今まで以上に意識するようになった。

「パトリックのすごいところは、演技をまとめあげる力。もし3回転だけでプログラムを構成しても、試合の緊張感のなかでそれをプラスが付くように完璧にこなすのは、難しいことです」(羽生)

 その後、羽生が選んだのは、4回転サルコウの「入り方」と「降り方」の難易度を上げて加点が狙える技術を取り入れ、その精度を磨くことだった。

「とにかくすべての面で、ただ、強くなりたい。ひと皮むけたな、と思ってもらえるように、血の滲(にじ)むような努力をしてみせます」

 その成果は、NHK杯に続くGPファイナルで顕著に表れる。ジャンプの「質」への加点でずらりと「+3」が並び、世界最高点、つまり羽生にとっての自己ベストを330点台へと伸ばしたのだ。(ライター・野口美恵)

AERA  2016年4月4日号より抜粋