●前職で経歴洗浄 二つ前を偽装

 タケシさんが所属するマーケティング部に中途入社してきたのは、40代後半のB子。以前は会社を経営していたが、そこを畳んで入社してきたという「変わり者」だ。会社を起こす前は同業のX社のマーケティング部門に長くいたらしく、そのキャリアは会社にとってノドから手が出るほど欲しい人材だった。

「自社の化粧品が日本人の肌に合うか、日本人好みの質感かなどの調査は重要で、X社には多くの成功事例がある。そこで市場調査を長く担当したという実績を買われて、B子さんは部長待遇で入社したと聞きました」(タケシさん)

 ところが、同じチームで仕事をすると、調査技法の知識やアウトプットのレベルが思ったよりも高くない。皆が不審に感じ始めていたころ、ひょんなことから、B子の偽装が発覚する。

 X社がアジアの拠点を日本から他国へ移すことになり、市場に人材が流出。タケシさんの元にも、人を介してX社のマーケティング部に所属していた人材の転職相談があった。その人にB子が会社の部長待遇だと伝えると、驚きながらこんな事実を伝えられたという。

「主力メンバーではなく、いわゆる作業スタッフで、コピーや雑用が彼女の仕事でした。独立というよりもお払い箱のような形で会社を追われ、作った会社もペーパーカンパニーに近い。ウチの会社はステップアップの“ダシ”に使われたわけです」

 B子はそんな過去はなかったかのように、市場調査のプロを自任して働いているという。

 複数の大手外資系コンサルで勤務経験がある人事・戦略コンサルタントの松本利明氏は、B子のように「二つ前の会社の経歴を偽るケースは多い」と語る。

「採用企業も直近の会社の実績は調査しても、二つ前までは追跡しないことが多い。また、企業に提出する源泉徴収票、年金手帳、雇用保険関連書類なども直近の会社のものなので、アシがつきにくいのです」

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