ハレノヒ代表取締役/フォトグラファー笠原徹さん(40)ハレノヒ柳町フォトスタジオの入り口に立つ笠原さん。佐賀市が歴史的建造物の活用を公募していた建物(撮影/編集部・鎌田倫子)
ハレノヒ代表取締役/フォトグラファー
笠原徹
さん(40)
ハレノヒ柳町フォトスタジオの入り口に立つ笠原さん。佐賀市が歴史的建造物の活用を公募していた建物(撮影/編集部・鎌田倫子)

 地縁・血縁というメリットを享受できない移住者には、起業は難しい――。そんな先入観は持たないほうがいい。逆境にこそ、商機がある。

 下ろされたシャッターばかりが目につく佐賀市の中心市街地を歩いていたら、ちょっと気になる店舗を見つけた。古民家を改装した店構えに、洋書みたいなアルバムや映画の一コマのような写真が並ぶ。雰囲気に惹かれて中に入って初めて、写真館だとわかった。奥には、撮影用の白いスクリーンが見える。

「ここ、本当に佐賀? 東京の代官山みたい」

 そう話す女性客もいる。ハレノヒ柳町フォトスタジオは、大正時代に建てられた履物問屋「旧久富家住宅」を活用し、2015年2月にオープン。口コミで人気が広がっている。

 顧客は、進学や就職で大阪や東京に出てUターンしてきた人や、結婚や出産を機に移り住んだ人たちだ。彼らは、地方に住んでいたっておしゃれな記念写真を残したい、と思っていた。写真館を運営するフォトグラファーの笠原徹さん(40)は言う。

「地方にも都会的なものを求める人はいる。『田舎なのに』『田舎のくせに』がブランドを生むんです」

 都市から地方への移住を考えるとき、「仕事の有無」が気にならない人はいないだろう。もちろん、起業という選択肢を安易に考えることはできないが、都市では需要に対して供給が過剰になっているサービスが、地方ではまだ十分に成り立つ、というケースがある。

 笠原さんのスタイリッシュな写真館がまさにそう。千葉県出身の彼は大学卒業後、大阪市内で大手婚礼写真会社に勤務。妻の出身地の佐賀市に移り住んだのは10年ほど前だ。市内の写真館やウェディング業界で働いたが、つい関西の一流ホテルのサービスと比べてしまい、最初はこの地に失望したという。

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