「あの揺れで、地面の下にあった問題が、地表に出てきた」

 震災後の光景が違って見えたのは、がれきのせいだけではなかった。もし地元の女川原発が爆発していたら、自分や家族はどうなっていたのか。

「いかに今までそういうリスクを知らずにいたのか、知ろうとしなかったのか、知らされてこなかったのか。見ようとすれば見えたかもしれない問題を見てこなかったのは、自分だけじゃない。社会もそうじゃないのか」

 もたげた疑問に共感する仲間が、大学にいた。平和について考える勉強会を企画したことがある。カントも参考に根源的に考えた。議論をリードしていた同級生、奥田愛基(あき)(23)だ。

 なぜか気が合った。沖縄の基地問題から核兵器、中絶のことや哲学まで。夜を徹して話した。その一部の仲間で、SASPLや安全保障関連法制に抗議するSEALDs(シールズ)の活動を始めていく。

 千葉の前には2本の道があった。一方が、社会への感受性を高め、考えを主張することにためらわない道。もう一方は、面倒な問題は視界の外に置き、いまを楽しむ道。クラブで音楽に体を任せ、飲み会に出かけ、「楽しい」と言って笑顔をつくってみたこともあった。感じたのは「後ろめたさ」だった。

「愛基たちがデモを始めていた。目の前に問題が見えているのに、何もしないことのほうがつらい。だから僕は声を上げて生きる。行動して迎える明日と、何もしないで迎える明日は、絶対に違うはずだから」

(アエラ編集部)

AERA  2016年3月14日号より抜粋