花粉の季節をマスクやゴーグルでしのぐ人も多いが、新タイプの薬や根治が期待できる療法が保険適用され、治療の選択肢は広がっている(撮影/写真部・植田真紗美)
花粉の季節をマスクやゴーグルでしのぐ人も多いが、新タイプの薬や根治が期待できる療法が保険適用され、治療の選択肢は広がっている(撮影/写真部・植田真紗美)

今年もスギ花粉前線が日本列島を北上中だ。根治が期待でき、1年半前に保険適用された療法が、成果を上げはじめている。(ライター・越膳綾子)

 さわやかな春の青空が広がっても、千葉県に住む女性(47)の気持ちは重く沈んでいた。20年来のスギ花粉症で、毎年、今の季節はゴーグルとマスクが必需品。帰宅後はすぐさま花粉を払い、洗濯物は部屋干しだった。

「近所のクリニックで処方された抗ヒスタミン薬を飲んでいましたが、副作用で眠くて仕事中はきつかったですね。そのうち効きにくくなって、夜、寝ている時も鼻が詰まって苦しくて」

 とはいえ、これは2年前までの話。昨年の春はくしゃみ、鼻水、鼻づまりが治まって、眠気もない。家族から「ずいぶん楽そうだね」と言われるほど症状は軽減した。花粉症の根治が期待されている「舌下免疫療法」を受けたからだ。

 花粉症は、無害なはずのスギなどの花粉に体が過敏に反応するアレルギー疾患だ。花粉が体内に入ると「IgE抗体」がつくられ、マスト細胞を感作する。次に花粉が入ってくると、マスト細胞からくしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの原因物質が分泌される。本来、花粉を体外に追い出すための反応だが、いきすぎると苦痛そのもの。

●月1回通院、毎日投与

 環境省の予測によると、今年のスギ・ヒノキの花粉飛散量は東北・甲信地方で例年並みかやや少ない、関東・四国・九州地方では例年並み、北陸・東海・近畿地方ではやや少ない、中国地方は例年並みからかなり多い地域までさまざまだ。

 舌下免疫療法は、毎日1回、微量のスギ花粉入りのエキス剤を舌下にたらし、2~3年かけて徐々に体を慣らしていく。単に症状を抑える対症療法ではなく、花粉に反応する体質を根本的に変えようという治療法だ。国内の臨床試験では、13%の人に口のかゆみや腫れなどの副作用が現れたが、かゆみは15分ほど、腫れも1時間ほどで治まる。2014年10月に保険適用され、鳥居薬品から「シダトレン」が発売された。

 テレビニュースで舌下免疫療法を知った女性は、千葉大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頸部外科の舌下免疫専門外来を受診。ひととおりの問診と検査を受け、シダトレンを処方された。最初は2週間に1回、今は月1回のペースで通院している。

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