安倍:山下さんのその考え方が私は好きなんです。今、すぐにお野菜などを品種改良してしまいますよね。子どもが苦手な臭みや苦みをなくすために品種改良している会社もあるのですが、苦くても、子どもたちには食べさせなくてはいけないとも思うんです。子どもたちに迎合して、甘いお野菜にしてしまうのは、人間の身勝手な気がして。

山下:甘いからおいしいわけではないんですけどね。味が分からない人に「おいしいもの作って」と言うのは無理があるんですよ。農家の味覚の差というのは大きいと思います。

安倍:山下さんの作るお野菜は、おいしいだけでなく、一つひとつに思いがこもっている。自分の野菜がちゃんと料理されていないと、三つ星シェフに対しても物を言っていますよね。

山下:「まずい」とはっきり言います。やっぱり1番の野菜を作ろうと思ってますからね。2番じゃだめなんです(笑)。

安倍:なぜ三つ星レストランにだけ卸しているんですか?

山下:トップにいる人は、料理界の未来を引っ張っていくオピニオンリーダー的なことを自然とやっているんです。いい料理を作るために、いい食材を求めているし、その食材が、新しくて、出回っていなくて、希少性があるなら、なおいいわけです。私の野菜は、三つ星シェフにこそ必要とされる野菜なんです。

安倍:以前、カブを食べさせてもらいましたが、本当においしかったです。

山下:でも、「いい野菜」を作ろうとは思っていますけど、「おいしい野菜を作ろう」とは思っていませんね。カブならカブが持っているポテンシャルを、カブ自身が最大限に発揮できるようにと考えています。

安倍:どうやってですか?

山下:特別なことをやるのではなく、何をやってはいけないかを考えています。私が野菜を作っているのではなく、神様が作っていて、それをちょっとお手伝いしている気持ちで。

AERA 2016年2月22日号より抜粋