<苦しい時期で、辞めたいと思っていました。でも、お客さまの信頼を得た以上、最後までやりきらないといけない>


 
 10年余り経ったいまも、足立はこのときの思いを胸にしまう。

「私たちは、お客さまに支えられた会社なんだ」

 明治安田生命が行ったことは、保険という商品を通して未来の安心を求めた、顧客への裏切りだった。一部の営業職員が、契約希望者の病歴などを偽って保険に加入させていた。一方で支払い部門は、契約者がうその告知をしたという理由で、保険金の支払いを拒否した。

 一人でも多くの契約者を獲得したい。不適切な保険金の支払いを防ぎたい。どちらも、課された業務には忠実だった。しかしそれは、契約者から見れば、ダブルスタンダードでしかなかった。金融庁は、ガバナンス(企業統治)の欠如を指摘した。

 社長の根岸秋男(57)は当時、企画部長の立場で業務改善計画づくりの指揮を執っていた。13年に経営トップに立つと、「行政処分を風化させない」と、ことあるごとに職員に訴えた。入社式のあいさつでも語り続けている。自らの経営の道筋を示した「ビジョンブック」の巻頭部分にも掲げた。

 行政処分から10年の節目だった昨年末、各部署であの頃の体験を共有しようというミーティングを呼びかけたのも根岸だ。現在、広報部に所属する足立も、営業所長時代を振り返った。
 
 10年前は中学生だった佐藤竜佑(23)は、足立の話を聞いて、働く思いを新たにしたという。

「行政処分を経験した内勤職員は、退職などで7割しか残っていないと聞いた。営業職員は4割。先輩の苦しみや思いを聞いて、後輩に明治安田のDNAを伝えていかなくてはいけない」

(アエラ編集部)

AERA  2016年2月22日号より抜粋