立ちはだかる階段。うむ、歩くしかない。それでも息があがり、汗が噴き出す。こんなハプニングも、出張ランのだいご味なのか?

 息も絶え絶えになったところで、うっそうと茂る木々の道に出てほっとする。ぬるい風もないよりはマシだ。スマホで確認すると、ここはイギリスの植民地時代に築かれた要塞跡、フォートカニング。どうりで険しいわけだ。緑のトンネルを抜け、坂道を下る。木々の隙間から、不思議な建物が見えてきた。最上階が巨大な船……そうか、これが有名なマリーナ・ベイ・サンズか。しばし見とれつつ休憩。

 無事、要塞の丘を越えて、シンガポール川沿いのジョギングコースへと向かう。向こう岸には高層ビル群がそびえ、川面をゆっくりと遊覧船が滑っていく。観光客が増え、再びマリーナ・ベイ・サンズの威容が迫ってくる。マーライオンが、その向かい側にあることを初めて知った。

 そうだ、午後からのアポのある場所の近くまで行ってみよう。と、ここから急きょ予定を変更。欲張って、翌日のアポの場所も下見する。昨晩着いたばかりなのに、勝手知ったる街のような気がしてきた。

 実際、このランで得た土地勘が、その後の移動でも大いに役立った。やっぱり、出張ランは、してみるものです。

AERA 2016年2月22日号より抜粋