大手電力が独占してきた家庭向け電力市場は約8兆円規模。そこに食い込もうと、ガス、通信、石油、鉄道など異業種からの新規参入が相次いでいる。競争が活性化すれば、電気料金が一気に下がるのを期待したいところだが、コトはそう単純ではないようだ。

「電力小売り事業は薄利多売のビジネス。電力供給には公的側面があり、誰もが利用できるような範囲内の価格設定にされています。その上で、燃料費や多額の設備投資を回収するには、よほど多くの電力を供給する必要があり、新規参入組が電気料金自体を下げるのは難しい。だからセット割、ポイント割を打ち出すしかないのです」

 東京理科大学大学院イノベーション研究科の橘川武郎教授はこう指摘する。

 電気料金の割引そのもので恩恵があるのは、主に毎月の電気使用量が多い家庭になりそうだ。

 家庭向け電気料金は使用量に応じて3段階に分けられており、電気を使えば使うほど単位当たりの料金が高くなる仕組みになっている。第1段階は、国が保障すべき最低生活水準の考え方に基づいて低く抑え、第2段階は標準的な家庭の1カ月の使用量を踏まえて平均的な料金に。第3段階はやや割高にしているのだ。つまり、単価が高い「第3段階料金」の比率が大きい家庭なら割引率は高くできるが、それ以外の家庭には割り引ける余地が小さい。ファイナンシャルプランナーの丸山晴美さんは言う。

「電気料金だけの割引でみれば、毎月300キロワット時、約8千円以上使用する家庭でないとメリットは薄そうです。電気使用量が少ない単身世帯などでは、変更すると逆に割高になる場合もあるので注意が必要です」

AERA  2016年2月22日号より抜粋