パート勤務の女性(42)も、度重なる夫の発言にいら立ちを隠せない。昨春、長女の小学校入学を機に塾の受付の仕事を始めた。家事との両立は想像以上に疲れるが、夕食の品数が少ないと夫はすぐに「これだけ?」。もう一品、慌てて作る。副菜2品以上が合格ラインだ。

 女性は出産前まで料理教室で講師のバイトをしていたほどの腕前で、夫は外食嫌いだ。

「家族で映画館に行って盛り上がったとしても、夫の『で、今日、夕飯なに?』という定番のセリフを聞くと、一気に冷める。最近は殺意すら感じます」

 極め付きは、女性が家事の大変さを訴えたときに、東大卒の夫が返したこのセリフ。

「じゃあ、君が僕みたいに外で働いて、同じだけ稼げるの?」

 何も言い返せなかった。

「『それって“モラハラ”だよ』って職場で言われて、気が楽になりました。非は夫にありますよね」

 言葉や態度で相手の心を傷つける精神的暴力をモラルハラスメントと言う。司法統計によると婚姻関係事件の申し立ての動機(妻)は、「精神的に虐待する」、つまりモラハラが24.3%で3番目に多い(2014年度)。

 会社員の女性(43)も7年前にモラハラ夫と離婚。フルタイムの仕事と1歳児の育児にヘトヘトだった当時、深夜帰宅の夫に夜食を用意して起きていることを強いられた。

「彼は『家族の中で自分が一番えらいし、一番正しい』という人。謝らなければ正座させられて延々と説教です。とにかく寝たくて必死に謝りました」

 ちょうど会社でリストラが激しくなって、辞めるも残るも地獄の状況だった。そんな会社が天国と思えるほど、家庭がつらかったと女性は言う。弁護士に相談していたときに、運よく(?)夫が浮気してくれて、離婚することができた。いまは経験者の立場から知人の相談に乗ることもある。

「モラハラをする相手の性格を変えようと思っても、疲弊するだけ。金銭的な理由などで離婚できないなら、家庭内でも可能な限り関係性を絶って自衛するしかないですよ」

AERA 2016年2月15日号より抜粋