証券アナリストの吉見俊彦さんは「株価買い支え」に協力した経験がある。東京五輪のあった1964~65年の「証券不況」でのことだ。「平均株価1200円防衛」というお達しを大蔵省(当時)から受け、大手証券が週単位の輪番で株を買い支えた、と振り返る。ただ、人為的な相場は長持ちせず、防衛ラインは半年で崩れ、福田赳夫蔵相が景気対策のため、戦後初の赤字国債の発行を決めるまで下げ相場は続いたという。

 バブル崩壊後の92年には、簡易保険などの資金を動員する「株価PKO(プライス・キーピング・オペレーション)」と呼ばれる買い支えがあった。

「株価は経済政策の結果としてつくもので、政府の都合で押し上げるのは本末転倒。買い手のない株を買って相場をゆがめれば、結局は損をかぶることになる」と吉見さんは指摘する。

 その役割を今は、GPIFが担っているのだろうか。

「年金に8兆~10兆円規模の損失が出たらしい」

 昨年11月、こんなうわさが兜町を駆け巡った。GPIFが7~9月の運用成績を発表する直前のことだ。

 6月末に2万円台をつけていた日経平均は、9月末に1万7000円台に下落した。中国の株式市場で暴落が起き、世界で株が売られた局面で、いち早く逃げようと投資家が売る株をGPIFは買っていたからだ。

 結局、7~9月は7兆8899億円の損失。年金積立金の市場運用を始めた01年度以降で最大の四半期損失だった。

 東証がまとめる投資部門別株式売買状況をみると、7~9月に株を集中的に売ったのは「海外投資家」で約4兆円の売り越し。これに対し、「信託銀行」が1兆円を買い越した。信託銀行はGPIFの窓口とされ、GPIFが世界的な株安を向こうに回して買い続けたとみられている。

 7兆円超の損失といっても帳簿上のことで、赤字額が確定したわけではない。01年度以降の運用の通算成績は45兆円以上のプラスで、厚生労働省は「今回の損失でいまの年金額が減ることはない」と強調する。とはいえ、貴重な老後の蓄えが市場の動きに振り回される性格を強めたのも間違いない。

AERA  2016年1月18日号より抜粋