「やはり1シーズン休んだので、久しぶりに会う先生方や、初めて会う選手もいる。スケート界はどんどん進んでいる」

 ショートでジャンプの難度を落とすと、気持ちはさらに「守り」に向く。

「いまできることを『レベルを落としてでもミスなく』と思ったけれど、それもできなかった。思う演技ができないので、マイナスなことを考えてしまう」

 こう語る浅田を見て佐藤は、「これほど自信喪失している状態を見たことがない」と感じたという。それでも佐藤は浅田に声をかけ続けた。

「伝えたかったのは『やればできるんだよ』ということだけ。気持ちが守りに入っていても、前に進むしかない」

 浅田も言う。

「復帰を決めてから、練習中も試合の前も後も、ずっと先生と話し合ってきました。いろいろな思いを話し、先生からも話を聞くと、自分の中が整理される。先生の存在なくして今のスケートはありえません」

 フリー当日は、心のパズルが一つずつはまっていくようだった。トリプルアクセルは朝の練習で50%の確率に戻り、試合直前の6分間練習では一発できれいに降りた。技術的な問題はない。すべては心の持ちよう。そう気づいたら、前半二つのジャンプはミスしたが、後半は調子が上がった。演技を終えると大きく3度うなずいた。

「今季の中では一番いいフリー。手ごたえがあったので、この感覚を忘れないようにしたい」

 佐藤も言う。

「吹っ切れたと思う。ここから一歩ずつ進んでいければ」

AERA  2016年1月18日号より抜粋