38歳のとき、世界で初めて宇宙でのCM撮影を行った。当初は門前払いを食らったロシア宇宙庁との交渉は、200ページにもわたる契約書でクリア。

 翌年には日韓ワールドカップの国立競技場でのパブリックビューイングを実施。いまでこそ、国際試合やコンサートを楽しむ手法として定着したが、FIFAが公認したパブリックビューイングを有料で行ったのは、世界で初めてだった。

 その高松さんが50代で目標にしたのが「宇宙飛行士」。今年6月、宇宙旅行を手掛ける米国の宇宙旅行会社と、国際宇宙ステーション(ISS)への飛行契約を結んだ。ロシア宇宙庁が宇宙旅行会社と組んで提供するプログラムで、民間人もこれを利用してISSを訪問している。

 憧れの宇宙だが、決断は簡単にはできなかった。訓練には1年程度を要するため、仕事はすべて辞めねばならない。「豊かな生活が送れる」と思っていた老後の資金も、訓練にすべて使った。今年の収入はゼロ。親は「気は確かか」と心配している。

 実際の訓練も、打ち上げや帰還時にかかる「G(加速度)」のシミュレーションや閉鎖環境にある船内で酸素を一定に保ったり……とラクではない。

 だが、50代でのチャレンジをこう考える。

「子どもには夢があるけど、実現する能力はない。一方、能力を身につけた大人は、夢を忘れていく。僕は50年で培った能力を、子どものような夢にぶつけてみたいと思った」

AERA 2015年12月7日号より抜粋