全4棟の大規模マンションだが、登記上は1棟で、管理組合も一つ。傾いた棟とそれ以外の住民の間では、さまざまな利害が交錯する(写真部・馬場岳人)
全4棟の大規模マンションだが、登記上は1棟で、管理組合も一つ。傾いた棟とそれ以外の住民の間では、さまざまな利害が交錯する(写真部・馬場岳人)

 全705戸の合意形成。横浜で傾きが見つかったマンションの管理組合に課された宿題だ。住む棟や家庭事情によって異なる利害を調整できるのか。理事2人が取材に応じた。

 横浜市都筑区のショッピングセンターに隣接する大規模マンション。帰宅した幼稚園児が前庭を駆け回り、母親たちが笑顔で見守る。そんな午後の穏やかな日常風景を、705戸を擁する4棟の建物が悠然と見下ろす。

 だが、いま住民たちの前には、「合意形成」という見えない壁がそそり立っている。

 1棟の基礎杭の一部が支持層と呼ばれる強固な地盤に届かず、建物がわずかに傾いていることが報じられると、売り主の三井不動産レジデンシャルは「全棟建て替えを基本的枠組み」とし、精神的負担も含む損害を補償する姿勢を見せた。

 だが「さすが三井」と持ち上げるのは早計だ。建て替えには仮住まいや権利変換などが伴う。このまま住み続けたいと切望する高齢者もいる。そのなかで住民総会を開き、所有者の5分の4以上の賛成で「建て替え決議」を成立させねばならない。合意形成の主体は、区分所有者で構成する「管理組合」だ。

 現在、三井側からは四つの選択肢が住民に示されている。全棟建て替え、問題の棟だけの建て替え、補修、住戸の買い取り、である。この状況で管理組合はどう動いているのか。マンションを訪ね、2人の理事に会った。建設会社を定年退職した60代の理事Aさんが、見通しを語る。

「12月初旬に初めて管理組合主催で住民説明会を開きます。弁護士や有識者、横浜市の職員も呼んで、進め方などを話してもらう。頭を整理するためですね。その後、どの方法を選ぶか、住民に無記名でアンケートをとる。何度もアンケートをとりながら、相手方と条件をすり合わせ、ある程度進んだら、合意書を交わす。できれば半年以内に決議して、5~6年でやり終えたい」

 なぜ、これまで管理組合が主体となって、住民に直接説明しなかったのか?

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