水曜日のアリス写真は「帽子屋のアトリエ」がコンセプトの雑貨スペース。各階ごとに異なる内装に、時折キャラクターの声が流れるなど、店内はまるでアトラクション施設のようだ(撮影/写真部・堀内慶太郎)
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水曜日のアリス
写真は「帽子屋のアトリエ」がコンセプトの雑貨スペース。各階ごとに異なる内装に、時折キャラクターの声が流れるなど、店内はまるでアトラクション施設のようだ(撮影/写真部・堀内慶太郎)
半那さんが描く「不思議の国に落ちていくアリス」。アリスが黒髪・短髪なのは、物語のモデルともいわれる実在の人物、アリス・リデルを参考にしているから(撮影/編集部・竹下郁子)
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半那さんが描く「不思議の国に落ちていくアリス」。アリスが黒髪・短髪なのは、物語のモデルともいわれる実在の人物、アリス・リデルを参考にしているから(撮影/編集部・竹下郁子)

『不思議の国のアリス』がイギリスで刊行されて今年で150年。今、日本では空前のアリスブームが起きている。多くの女性をひきつけるアリスの魅力とは。

 東京・原宿のアリスグッズ専門店「水曜日のアリス」には、週末、1千人以上の客が訪れる。開店は昨年秋だが、今も入場整理券で制限しないと入れないくらいの混雑ぶりだ。販売するのは、登場人物たちをモチーフにしたお菓子、アクセサリー、雑貨など。店内のBGMは、女子たちの「カワイイ~」という歓声だ。“女子”といっても、客層は小学生~60代と幅広い。広報の岩橋理恵さんは、人気の理由をこう分析する。

「アリスの魅力はカワイイだけじゃない、どこかおどろおどろしい唯一無二の世界観で、商品も“毒っ気”を大切にしています。歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんの人気と通じるものがあるのではないでしょうか」

 曲のPVにはグロテスクな要素を取り入れていると公言し、カラフルな衣装で、窮屈な世界から自由になりたいと歌うきゃりーは、確かに、現代版アリスなのかもしれない。

 原作者ゆかりの地、イギリスのオックスフォードで毎年開催されるアリス・デーでは、男女問わずアリスの登場人物に扮し、街中はアリスをモチーフにしたさまざまな作品で彩られる。そこに今年、日本人で初めて絵画が展示されたのは、画家の半那裕子さん(59)だ。半那さんが描くアリスのテーマは“束縛の中に自由を求める”少女の姿。

 美大を卒業後、24歳で結婚した半那さん。父親からは「変に社会ズレするな」と言われ、会社勤め、一人暮らし、海外旅行の三つを禁止されていた。その後、2人の男の子を出産。子育てが一段落した10年後、本格的に画家としての活動を開始する。日本では戦後、女流画家協会ができるまで、女性はコンペにも出品できなかったほど、画家の世界は男性中心だった。女性の自立なんて考えられなかった当時のイギリスで、良家の子女であるアリスが、異なる環境に放り込まれたときどうするのか? 自分の境遇とアリスが重なったという。

「理不尽な登場人物にふりまわされ、どんな不条理にぶちあたっても、それを乗り越えて成長していく様子は、現代日本社会を生きる私たち女性の姿のようで、勇気づけられました」

AERA 2015年11月9日号より抜粋