上司は提出した資料の細部を徹底的に詰め、海外の事例や本題とは関係のない単語の意味なども矢継ぎ早に質問してくる。うまく説明できなかったり、ミスをしたりすると、「君には基本的な能力が備わっていない」と全否定する。そもそも職場の体質なのか、些細なミスも許されない。資料の体裁が少しでも間違っていたり、表記に簡単なミスがあったりすると、全直しを要求される。男性は、声をひそめる。

「あんなふうに注意するのは言葉の暴力ですよ。頭がいいから、やり方も陰湿。何の役にも立たないし、精神的にまいってしまう」

 官僚としての待遇が「恵まれていない」とは思わないが、自身のプライドを傷つける上司の言動には、辟易している。

 暴力をともなうパワハラを見聞きした経験があるのは、20代の男性消防士。ある日、職場の回覧メールで同僚の死を知り、絶句した。

「断定はできないけど、自殺だったらしいんです。会話を交わしたこともある人だったので、上司にいじめられていたと聞いたときには、怒りがわきました」

 職場には、上司には絶対服従の空気がある。上司に言われたことに忠実に従うことが尊ばれ、部下が意見をしたり、前例と違うことをしようとしたりすることは認められない。男性は人命救助を志して消防士の道を選んだが、硬直した組織に嫌気が差している。

AERA 2015年11月16日号より抜粋