神戸大学名誉教授で弁護士の阿部泰隆氏は、「泥棒に刑法を作らせる、あるいは猫にかつお節の番をさせるようなものだ」と表現する。どういう結果になるのか、最初から目に見えている、というわけだ。

「地方自治法改正で、国と地方の紛争は裁判で決着をつけるルートが整備された以上、これを利用すべきだ」(阿部氏)

 そのルートの一つが代執行。代執行とは、地方自治法に定められた手続きで、国が委任する「法定受託事務」を、法令に反して実施せず、是正勧告や指示にも応じない都道府県に対し、大臣が高等裁判所に訴えて勝訴すれば、知事に代わって手続きができる制度だ。

 成蹊大学法科大学院の武田真一郎教授は「代執行は裁判所の判断を受けられる点で、審査請求よりよほど公正」としつつも「審査請求では“私人”の立場を主張した国が、国にしかできない代執行も行うのは、二つの立場を都合よく使い分けている」と指摘する。

 なぜ国は二つの手続きを同時に進めたのか。龍谷大学法科大学院の本多滝夫教授は、代執行の手続きでは、判決が出るまでは県の承認取り消しの効力が生き続けるため、工事を続けたい政府は行政不服審査法を使い、執行停止した上で代執行に着手したのでは、とみる。

「実質的に代執行の先取りとして執行停止を利用していて脱法的と言える。これは行政権の乱用だ」(本多氏)

AERA 2015年11月16日号より抜粋