元石彫り職人という異色の経歴を持つイギリス人のエリック・ギルが1920年代に制作。「めがね形」のg、「2階建て」のaが特徴的
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元石彫り職人という異色の経歴を持つイギリス人のエリック・ギルが1920年代に制作。「めがね形」のg、「2階建て」のaが特徴的
「男女問わず人気がある彼女。厳しさではなく、優しさと気配りで人を惹きつけるタイプ」(robamotoさん) (c)robamoto
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「男女問わず人気がある彼女。厳しさではなく、優しさと気配りで人を惹きつけるタイプ」(robamotoさん) (c)robamoto

 欧文書体を人に見立て、可愛らしい少女を生み出す人がいる。フォントに“萌える”その思いとは。

 伝統的な欧文書体から独自の少女キャラクターを次々つくりあげるフォント愛好者がいる。デザイナーのrobamotoさん(36)だ。お気に入りの欧文フォントをいくつか選び、その文字を組んだ面の雰囲気を擬人化する。フォントの成り立ちや誕生のエピソードもふまえながら少女の性格を“妄想”し、イラストに落とし込む。 雑誌、カタログ、広告などでよく見る「GillSans(ギルサン)」も、彼の手にかかれば、可愛らしい少女に変身する。

「骨太な強さがありながらも、どこかキュートな印象。特にMとRの造形がかわいらしい! 
理知的で大人っぽい雰囲気の美人だけど、話してみるところころと笑ってくれそうな女の子。特徴的なgの形から、メガネをかけているイメージですね」(robamotoさん)

 学生時代から文字のフォルムを研究し、修士論文のタイトルは「文字の動的生成」。アニメや漫画も好きで、コミケにも参加していた。同人誌の世界にもDTP化の波が押し寄せていた2003年、自分にしかできない本を作りたいと、フォントと少女イラストを組み合わせた『少女と活字』を自費出版。じわじわとマニアの心をつかみ、10年後に改訂版「プラチナ・コレクション」を上梓した。

「書体には個性があります。かわいらしかったり、綺麗だったり、気難しかったり、つんと澄ましていたり。書体を人に見立てると、自然と性格が想像できるんです」(同)

 書体や字配りなどをデザインするタイポグラフィーの歴史は古く、活版印刷が始まって以来、数百年にわたって徐々にさまざまなタイプフェイス(印刷用書体)が生み出されてきた。活版、写真植字を経て、いまや誰もがデジタルフォントを使いこなせる時代だ。

「タイプデザイナーは、自分が作った書体にまるで娘のように接し、微調整を繰り返して、文字どおり“育てていく”といいます。より多くの人に、一つひとつの小さな文字に凝縮された、彼女たちのきらめく魅力に気づいてもらいたい」(同)

 直線や曲線や空間のバランスが醸し出す文字の身体性。それへの限りない偏愛が、究極の少女キャラを生み出すのか。

AERA  2015年11月2日号より抜粋