2年半の同居の末、子どもに精神的な影響が出てしまった。長男はいまも、フラッシュバックに悩まされている。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の「2次障害」のような症状が続き、児童精神科に通っている。

「守らなければならない対象が複数あると、優先順位に悩みます。ぎりぎりの選択でしたが、義母には老健に入所してもらいました。ちょっと遅かったかなと、後悔しています」

「ダブルケア」という言葉は、横浜国立大学准教授の相馬直子さんとイギリスのブリストル大学社会・政治・国際学研究科講師の山下順子さんが考案した造語だ。2人を筆頭とする研究班は、2012年から3年かけて、主に団塊ジュニア世代の、6歳以下の子を持つ母親を対象にした実態調査を行った。その結果、過去や数年先を含めダブルケアに直面していると回答した当事者は、全体の32%にのぼった。相馬准教授はこう語る。

「見えてきたのは、晩婚・晩産化の影響、そして家族機能が弱体化して、大きい親族ネットワークが見込めないなかでの『ダブルケア』状態だという現実です。さらに共働き世帯も増え、子育て介護・仕事の両立問題という、新たな形の『ケアの社会化問題』として捉えています」

 一方、介護と子育ての同時進行は、ネガティブな面ばかりではない。「子どもが潤滑油を買って出てくれ、介護の大変さが軽減する日常の一コマもある」といった声も聞いた。

AERA 2015年11月2日号より抜粋