まあるい顔に八の字模様。「水戸の招き猫」ハチは、今日も糸久たばこ店で福を呼び込む。晴れた平日13~18時ごろに会えることが多い(撮影/今村拓馬)
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まあるい顔に八の字模様。「水戸の招き猫」ハチは、今日も糸久たばこ店で福を呼び込む。晴れた平日13~18時ごろに会えることが多い(撮影/今村拓馬)
飼い主の前田陽一さんの肩に抱かれて“出勤”するハチ。甘えん坊で、前田さんのトイレまでついてくる。好物はモンプチのカリカリ(撮影/今村拓馬)
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飼い主の前田陽一さんの肩に抱かれて“出勤”するハチ。甘えん坊で、前田さんのトイレまでついてくる。好物はモンプチのカリカリ(撮影/今村拓馬)

 看板に招き猫。もともと縁起のよい存在だが、このところ日本中が猫に夢中だ。猫本は爆売れ。猫アプリは爆DL。世知辛い世を渡るわれわれを癒やし、生活を潤してくれる大切な友。そんななか、いま人気を集めている水戸の名看板猫を紹介する。

 見るからに福をもたらしそうな猫がいる。茨城・水戸にある糸久たばこ店の看板猫「ハチ」。その名の通り、顔に「八」の字の模様がある。ハチがテレビや新聞などで取り上げられると、瞬く間に有名となり、今や、全国からファンが訪れるという。

 アエラ編集部も早速、水戸へ駆けつけた。仕事のついでにハチに会いに来たという東京の男性に、県外からハチに会いに来た親子、たばこや宝くじを買うときに、「猫ちゃんはいる?」と、うれしそうに店内を見回す地元の人など、糸久たばこ店には後を絶たずに客が訪れる。

「ハチノミクス、なんて言う人もいるんです」

 そう笑いながら話すのは、ハチの飼い主で、編集プロダクション代表の前田陽一さん(59)。 前田さんとハチとの出会いは、震災直後。3.11の日、水戸市は震度6弱の揺れに襲われ、大きな被害が出ていた。幸い前田さんにケガなどはなかったが、近所にある居酒屋など飲食店が並ぶ宮下銀座商店街は、酒瓶が割れ、あたり一面、酒の匂いが漂った。店の再開は遠く、暗い雰囲気に包まれた。

 水戸生まれ、水戸育ちの前田さん。何かできないかと考えていた。そんなときに前田さんの友人から、「面白い模様の子猫が生まれたから飼わないか?」ともちかけられた。見ると、顔に八の字模様がある。

「この猫が明るくしてくれるかもしれない」

 そう直感した前田さんは2011年6月、ハチを引き取った。会社の事務所で飼うことにしたが、取材で前田さんが留守にすることも多い。子猫のハチを一匹にさせるのはかわいそうだと、かねてから知り合いの糸久たばこ店に、留守の間ハチを預かってもらうことにした。

 糸久たばこ店は宮下銀座の入り口にある。ハチが話題になると、自然と人が周辺の店にも戻ってきた。糸久たばこ店の店長、長谷川香さんも終始笑顔だ。

「ハチが街を明るくしてくれました。それにハチが来てから、うれしいお手紙やお声掛けを、たくさんいただくようになったんです」

 長谷川さんのもとには、「初めて宝くじを買って当たった」というものから、「受験に合格した」「彼氏ができた」「就職が決まった」「結婚できた」「病気が治った」というものまで、明るい話が舞い込んでくるという。

AERA 2015年11月2日号より抜粋