KDDI10月2日、成田空港からフィリピン・マニラでの研修に飛び立った5人の部長たち。この3日後に語学学校に入学。研修中は、家族とも離れて過ごす。洗濯も当然、自分でする(写真:KDDI提供)
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10月2日、成田空港からフィリピン・マニラでの研修に飛び立った5人の部長たち。この3日後に語学学校に入学。研修中は、家族とも離れて過ごす。洗濯も当然、自分でする(写真:KDDI提供)

 必須ではない人にとっても、あって邪魔になるものではないのが語学力。管理職にこそ、必要な能力となっている。

 英語漬け、とはまさにこのことだ。午前6時に起き、7時半には語学学校に向かう。8時に授業が始まって、50分の授業とブレークが午前中だけで4セット。外国籍の講師から英語で英語を学ぶ授業だ。

 この研修プログラムをいま、フィリピン・マニラで、通信大手KDDIの部長職5人が受けている。授業は午後5時まで続く。2時間の自主学習を経て宿泊先に戻るころにはもう日が暮れている。5人の講師からそれぞれ宿題が出るので、飲みに行くこともできない。

 KDDIは現在、売り上げの9割を国内で稼ぐ。だが日本の人口減は待ったなしだ。昨年はミャンマーの通信事業に参入し、今後は海外でのビジネスを加速させたいと考えている。だが、大きな課題があった。

「仕事はできても、英語はできない。そんな社員が多いんです」(人事部長・白岩徹さん)

 仕事ができて英語もできる社員の育成が急務と考えたKDDIは、次期幹部候補である部長職の一部の集中訓練を決めた。冒頭の5人は、その第1陣。つい1カ月ほど前の10月2日に成田空港を飛び立ち、フィリピンで3カ月の語学研修プログラムを受けたのち、次の2カ月は日本に戻って、より実務的な英語の研修に充てる。その後さらに海外に渡ってビジネススクールで実践力をつけ、来年3月に職場に戻る予定だ。

 半年間、業務には一切かかわらない。5人のパソコンは「情報システム本部預かり」で、メールも見ることができない。業務は部下などが代わりを務め、5人には「元のポジションに戻れる保証はない」と話している。元の仕事を続けるより、新たな事業に携わってほしいからだ。

 プログラムの効果はまだ見えないが、副次効果は既にある。彼らが抜けた職場では、その穴を埋めようと「次世代リーダー」が頭角を現してきた。12月からは次期部長候補にも英語学習を取り入れる予定だ。

「本気で英語に向き合う部長たちの姿が、いい危機感を生んでくれることも期待している」(白岩さん)

AERA 2015年11月9日号より抜粋