国立がん研究センター中央病院では、10年ほど前から臨床心理士の野澤さんが中心になって外見に悩む人をサポートする取り組みを続け、2013年4月にアピアランス支援センターを開設した。

 病院の1階ロビー横の一等地にある同センターを訪れた高田さんは、棚一面に並んださまざまなウィッグに圧倒された。野澤さんに勧められ、今まで経験したことのない髪色やヘアスタイルのウィッグをつけてみると、意外に似合っていることに気づき、気持ちが明るくなった。

「思い切ってショートカットのウィッグでイメチェンしてみようかな」と笑う高田さんに、野澤さんは、「いい機会だから、やってみて。使うと決めたウィッグに近い髪形にあらかじめ地毛を切っておくと戸惑わなくて済みますよ。薬が終わればまた生えてきますからね」 と背中を押した。

 外見の支援は、美容の一環として外見の変化を隠すことだけと考えられがちだ。しかし「患者と社会をつなぐことこそが目的」と、野澤さんは言う。

「無人島に一人でいれば、丸坊主だろうがひげを生やしっぱなしにしようが悩むことはありません。社会の中で生き、周囲の目があるから悩む。がんになっても患者さんが生活者であることは変わりませんからね。治療背景を含め、患者さんが社会の中で快適に過ごすにはどのような方法があるのか、という視点で支援することが大事です」

AERA 2015年9月7日号より抜粋