もはや「がん=不治の病」ではない。画期的な検診法や治療法の研究は日進月歩だ。仕事を持ちながら、がんの治療をする人はおよそ32万5千人にのぼる。そのなかには、苦しいがんとの闘いの中で“ギフト”を得たと話す人がいる。
日本テレビ記者の鈴木美穂さん(31)は2008年5月、シャワーを浴びている時に右胸に違和感を覚えた。当時はまだ24歳。「まさか」と思ったが、悪い予感は的中する。
大学病院で精密検査を受けた結果、右胸に二つのがんが見つかった。腫瘍の大きさは合わせて5センチほど。医師からは、右乳房を全摘出する必要があると説明された。入社3年目。子どもの頃から憧れていた記者になり、これからという時だった。
「働いて結婚して、出産して。女性としてごく普通の将来が閉ざされる絶望感。そう遠くないかもしれない『死』と向き合う恐怖に、頭の中が真っ白でした」
会社を休職し、治療に専念した。抗がん剤の副作用で髪が抜け、強い吐き気や倦怠感に襲われた。全てが嫌で泣きじゃくり、ベランダから飛び降りそうになったこともある。そんな時、心の支えになったのは仕事への情熱だった。家族や同僚に頼んで、闘病中の自分を撮影した。記録している最中は、記者である自分を見失わずにいられた。
「どうしても記者に戻りたい」