「聞こえたふり」強いられる人のため ベンチャー発「健常者ができる難聴者支援」

AERA
「ひと山当てて億万長者に」。そんなステレオタイプな起業家像とはかけ離れた人たちが目立つ点は、いまのベンチャーブームのひとつの特徴だ。自らのビジネスで社会が抱える問題を解決したい。そんな思いに突き動かされる人がいる。

 貧困が当事者以外からは見えにくいように、障がい者が抱える問題も、こちらが歩み寄っていかなければ理解することは難しい。ユニバーサル・サウンドデザインの中石真一路社長(42)は自ら難聴者に歩み寄り、人の声などを彼らが聞き取りやすいように調整するスピーカーとマイクを組み合わせた「コミューン」を開発した。

「かっこ悪い」という理由で補聴器をつけたがらない難聴者は少なくない。それなら、健常者の側でできる支援を、というのが製品のコンセプトだ。

 声の聞き取りやすさを左右する子音部分を増幅するとともに、スピーカーの音が部屋の壁に反響して不明瞭になることを防ぐため、材質や構造に工夫をこらした。

 2013年12月に発売。価格は20万円前後だが、役所の窓口や病院の診察室、企業のオフィス、学校など、すでに300カ所ほどで使われている。

 中石さんの父と祖母は難聴者だ。父からは「会社の会議では、聞こえていなくても聞こえたふりをする」といった話を聞き、難聴者が肩身の狭い思いをしていることに心を痛めた。

 専門学校を卒業後はIT企業を渡り歩き、09年に大手レコード会社へ。新規事業の開発を担当し、「難聴者にも聞こえやすいスピーカー」の研究を始めたが、会社はもうかりそうにない研究には冷たい。事業化の夢は絶たれたが、もともと音楽好きで、アンプやスピーカーを自作したこともある中石さんは独力で開発を続けた。

 専門業者の手も借りて試作品をつくり、各地の難聴者団体に持ちこんではテストを繰り返した。12年に父らとユニバーサル・サウンドデザインを設立し、その後レコード会社を退職。コミューンを完成させた。

「人は聞こえづらくなると話さなくなり、コミュニケーションが疎遠になりがちです。健常者がそうした事情を理解し、みんながコミューンを使うようになれば、現状は変えられます」

AERA  2015年8月24日号より抜粋

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