ユビレジ木戸啓太社長(30)[東京都渋谷区]きど・けいた/ユビレジはiPadが対応するすべての言語で使える。米国やカナダ、中国、韓国など20~30カ国でもダウンロードされ、利用されているという(撮影/編集部・庄司将晃)
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ユビレジ
木戸啓太
社長(30)
[東京都渋谷区]
きど・けいた/ユビレジはiPadが対応するすべての言語で使える。米国やカナダ、中国、韓国など20~30カ国でもダウンロードされ、利用されているという(撮影/編集部・庄司将晃)

 企業向けビジネスを手がける起業家も増えてきた。新顔は参入しづらい分野と言われるが、「かゆいところに手が届く」サービスはベンチャーならではだ。まさにそんなサービスを、iPadを使って生み出した企業がある。

「タブレット」という情報端末の新たなカテゴリーを創り出し、人々のネットとの付き合い方を大きく変えたiPad。ユビレジの木戸啓太社長(30)は、2010年の発売時にひらめいたという。

「これは、レジとして使える」

 友人と不動産情報検索サイトの運営会社を設立して、半年ほどがたっていた。

 このひらめきには、慶應義塾大学時代のアルバイト経験が生きた。バーテンダーとして1年ほど働いた東京都内の小さなバーでは、紙とペンで会計を処理していた。レジの機械は高価なうえ、狭い店内には置き場所がない。そもそもバーの雰囲気にはそぐわないとも感じていた。iPadはコンパクトでカッコいいし、画面の大きさも十分。しっかりしたアプリを作れば間違いなく売れると確信した。

 不動産サイトに見切りをつけて、1カ月ほどでアプリ「ユビレジ」を完成させ、10年8月に提供開始。当時、世界初のiPadレジだった。その後、社名もアプリと同じ名前に変えた。

 改良を繰り返したアプリは、注文の記録や支払金額の計算から、日別・時間別の売り上げ集計と傾向分析といった機能まで備える。チェーン店なら各店のデータを本部で一括管理することもできる。

 スーパーや百貨店で目にする「POS(販売時点情報管理)レジ」も同様の機能を備えるが、導入費用はふつう1台で数十万円以上。零細事業者にとってはそれなりの投資だ。ユビレジなら、iPadを除けばレシート用のプリンターなども含む基本セットが2万円ほどで導入できる。

 安いだけではない。ふらりと入ってきた客とあいさつを交わしながら、バーテンダーがさりげなくiPadに触れる。顧客管理機能によって前回の注文を素早く調べ、好みの飲み物を薦める──。こんな使い方もできる、と木戸さんは言う。

AERA 2015年8月24日号より抜粋