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 大仏を崇拝し、ゴジラやウルトラマンを愛する日本人。「進撃の巨人」現象が巻き起こった理由を「巨大さ」をキーワードにひもといてみる。

 巨大であるということは、ただそれだけで人をひきつける。大きさの持つ魔力。東京スカイツリーが建てば行列が生まれ、等身大ガンダムが立てばカメラが向けられる。「進撃の巨人」現象もまた然り。なぜ我々は、大きなものに心を奪われるのか。

「巨大なものを目にしたときの違和感がたまらないんです」

 そう話すのは、巨大仏像写真家の半田カメラさん(39)。本業は雑誌や広告などで活躍するカメラマンだが、茨城県の牛久大仏にハマったことがきっかけで、日本全国の巨大仏および大仏を撮り続けている。

「非日常を味わいたい、圧倒されたいという気持ちが自分の中にある。巨大仏を見ると、自分がちっぽけな存在に思えて、身の回りの悩みなどどうでもよくなるんです」

 日常の空間に突如出現する巨大な人型の像。一瞬、目の前の現実を受け入れられず、「脳が誤作動を起こす感じ」に興奮するのだという。

 巨大仏に関する日本人独特のセンスについて、ゴジラやウルトラマンに造詣の深い評論家の切通(きりどおし)理作さん(51)は、次のように指摘する。

「山の稜線を描き、その向こうから巨大な仏がやってくるという発想は、どうも私たち日本人のセンスらしい。もとの中国にはなかったそうです。初代のゴジラも、やはり最初に稜線の向こうから顔を出しました。巨大な何かが『ぬっ』と姿を現すという感覚は、日本人の中に連綿と受け継がれているものなのかもしれません」

 そこで思い浮かぶのが『進撃の巨人』の冒頭。超大型巨人は、エレンたちが見上げる壁の向こうから「ぬっ」と顔を現した。あの衝撃的なシーンは、実は日本人の伝統にのっとった表現のひとつだったのである。

AERA 2015年8月3日号より抜粋